日本柔道整復・接骨医学会 第3回学術大会 1994年(H.6)
前十字靱帯、前方顆間骨折、膝関節20゜屈曲位固定、冷却療法
<はじめに>
この骨折には前十字靱帯の剥離によって生ずる前方顆間骨折と後十字によって剥離される後方顆間骨折とがある。
今回、前十字靱帯の強力な牽引による前顆間区の剥離骨折の患者さんが来院しました。
前十字靱帯の緊張がゆるむ膝関節20゜屈曲、足関節20゜底屈位で、大腿部3分の2の位置から中足趾節間関節(MP)までギプス固定、剥離骨片の離開も修復され、良好なる1症例を経験したのでここに報告します。
<前方顆間骨折と前十字靱帯単独損傷の発生機転>
前方顆間骨折と前十字靱帯単独損傷は、同じ発生機転であると考えられる。
どちらも、脛骨の内旋と膝関節の完全屈曲が強制されたときに生ずる。
前方顆間骨折は、10才〜20才に多いと記されていますが、これは、若年層の関節は軟らかく、骨も発育段階で、靱帯付着部の骨自体が軟らかく剥離されやすい理由と考える。
<膝関節における固定角度の検討>
まず前十字靱帯の解剖について述べると、脛骨の付着部の基準として、前内側帯と後外側部分に分けられる。
右膝関節の場合、前内側帯は、大腿骨顆間窩外側面の起始部前下部から左へねじれながら前方へ下行し、脛骨顆間結節の付着部前内側部に至る線維である。
前十字靱帯は全体的に左へねじれるように扇状に走行している。
次に、膝関節の伸展から屈曲に移る段階で大腿骨と脛骨の動きが、屈筋や伸筋、そして靱帯が関与して、ころがりとすべり、そして下腿の内旋が加わり前十字靱帯の長さ変化に微妙に作用する。
そこで、前方顆間骨折の保存的療法で一番よい膝関節の固定角度を検討すると、前十字靱帯の前内側帯によって剥離されている為、その前内側帯が一番ゆるむことが第一と考える。
田辺、安田らが、伸びトランスデューサーを用いて、前十字靱帯及び後十字靱帯の長さ変化に関する生体工学的研究を行った報告によると、大腿四頭筋に張力がない時に膝関節20゜〜30゜が前十字靱帯の前内側帯が一番ゆるむ角度であると記されています。
それは屈曲時、大腿骨が脛骨上でうしろにころがりその時、屈筋群が脛骨をうしろへ引き大腿骨の前方へのすべりが生じ、丁度20゜〜30゜の角度で前内側帯がゆるむのではないかと推測する。
そして屈曲が50゜以上になると下腿の内旋が増し、大腿四頭筋の張力も増す爲、前十字靱帯の前内側帯は伸張されるので骨片が自然整復されない。
又大腿骨と脛骨の間隙が狭い方が骨片を脛骨の母床へ押し下げやすい。
以上のことから、前方顆間骨折の固定肢位は、大腿四頭筋の張力が極力少なく、前十字靱帯の前内側帯がゆるむことと、大腿骨が骨片を脛骨の母床に押し下げること、又下腿の内旋が少ないことを考え合わせると、膝関節屈曲20゜が最適な固定であると判断します。
(症例)左脛骨前方顆間骨折、8才、女子
(原因)スキーをしていて、ボーゲンで止まろうとして頚骨の内旋と膝関節の完全屈曲が強制され負傷
(症状)膝関節の自発痛、圧痛、腫張、血腫、下腿動揺性、屈伸痛、著明
(処置)ギプスにて、大腿骨3分の2の位置から中足趾節間関節(MP)まで、膝関節20゜屈曲、足関節20゜底屈位で固定、松葉杖歩行にて荷思不可とする。
<治療経過>
初日から1週間;固定により自発痛減少。冷却療法にて腫脹軽減につとめる。
1週間後;(x-p)の結果、骨折部が近づく。腫脹軽減により固定力低下し、ギプスを巻替える。
2週間後;(x-p)の結果、ほぼ骨折面が整復される。
4週間後;(x-p)の結果、骨折部の仮骨形成良好。腫脹減退によりギプス巻替え。
6週間後;(x-p)の結果、骨折部が癒合す。ギプス除去し包帯固定を施行。6週間以降は、温熱と軽擦による治療開始。又徐々に荷重をかけるように指導。自動運動も開始。
46日目;自動屈曲70゜自動伸展-10゜
48日目;自動屈曲90゜自動伸展-5゜
50日目;自動屈曲110゜自動伸展0゜
8週間後;自動屈曲150゜自動伸展0゜
9週間後;松葉杖除去
11週間後;日常生活には支障なく、正座可能、走行可能にて治癒す。
6ヶ月後;(x-p)の結果、骨癒合良好。
<考察>
1、 前十字靱帯の前内側帯の緊張が一番ゆるむ膝関節20゜屈曲位の固定が最適である。
2、 膝関節20゜屈曲固定により、自然に骨片が母床に近づき無理なく骨折部が自然整復した。
3、 腫脹減少に伴う固定のゆるみに注意し、その都度、ギプスを巻替え膝関節の安定性を保持した。
<むすび>
前方顆間骨折は、最初に整復しなくても、膝関節20゜屈曲位固定と冷却療法を行うことで骨折に伴う、自発痛、筋緊張、腫脹などの整復障害因子が除かれ、骨折部が自然整復され好成績を得られました。
日本柔道整復・接骨医学会 第2回学術大会 1993年(H.5)
枕子による尺骨肘頭骨折の固定法の1症例
<目的>
尺骨肘頭骨折は、肘を曲げて倒れ肘を直接強打し骨折する場合と、上腕三頭筋の強力な牽引により肘頭部を引きさかれる為に生ずる骨折とがある。
転位のある骨折は、長期間固定による関節拘縮と、整復障害因子があるために観血療法で行われていた。
そこで、整復障害因子を取り除く為に、肘関節を伸展位で掌側にシーネ固定することで、直接、枕子で骨折部を圧迫すると同時に、氷のうにて患部を冷却することができる為、筋肉の緊張緩和と腫脹軽減に即効性がある。
そして、骨折部が、早期に整復しやすい状況になり、整復後、枕子による持続圧迫をすることにより、整復の効果を最大限に発揮できる。
<方法>
対象は、63才女性、自宅前にて溝にはまり、肘関節を屈曲位で転倒し肘頭部を強打し負傷。
尺骨肘頭部の骨片の離開が15mm自発痛、圧痛、腫脹、血腫、動揺性、屈伸痛著明の方の施術をするにあたり、固定に必要な用具、ならびに固定方法、施術経過を説明すると、まず、シーネ、アルミ副子、枕子(硬いスポンジ)を用意する。
そのうち枕子の大きさはA.タテ6cm、ヨコ4cm、厚さ1cm、タテ方向に三角の溝をあける。
B.タテ6cm、ヨコ2.5cm、厚さ0.5cm、C.タテ6cm、ヨコ4cm、厚さ1cm、D.タテ6cm、ヨコ4.5cm、厚さ1.5cmとする。
次に掌側に肘関節屈曲15°で三角筋粗面の位置から中手指節間関節までシーネ固定をし、後面にアルミ副子で枕子Aを入れ、三角の溝を肘頭部にあて、抹消へ押しながら、骨折部を軽く圧迫し布テープで固定、冷湿布と包帯を施行。
提上肢とする。
施術経過については、初日から1週間は骨折部の整復をせず、先程の固定をし患部を冷却することで腫脹の軽減に努める。
そして少しづつ骨折部の広い離開を近づけるように毎日軽い圧迫を加える。
その後、冷湿布をし固定、腫脹の軽減と共に2ツ目の枕子Bを入れ二重にし、骨折部の離開を縮める。
1週間後、腫脹減少により、整復操作を行う。
左手で中枢骨片、右手で末梢骨片を把握し、合致するように圧迫し整復する。
整復位の位置にて、屈曲15°でシーネ固定、二重枕子による後方からの圧迫固定を施行。
10日後、腫脹軽減と共に、後方のアルミ副子の角度を少し曲げ、圧迫を強化すると骨折部が近づく。
2週間後、2ツ目の枕子を少し大きいCに替えることによって、ほぼ骨折面が合致する。
3週間後、腫脹減退し、2ツ目の枕子をもう少し大きいDに替え、後方のアルミ副子の角度を少し伸ばし、圧迫固定する。
正面、側面共正常位で安定。
4週間後、骨折部の仮骨形成やや良好。
浮腫も少しづつとれ、2ツ目の枕子を小さいCに替える。
5週間後、仮骨形成良好。
6週間後、骨折部の癒合をみる。
固定除去し、包帯固定を施行、温熱と軽擦による治療開始。
また自動運動も開始する。
<結果>
6週間で、骨折部は癒合したが、関節の拘縮、軟部組織の拘縮があり、その後、マッサージによる関節可動域の改善、筋肉の血行促進を行い、8週間後、自動伸展-10°自動屈曲70°
約3ヶ月後、自動伸展-7°自動屈曲100°
約4ヶ月後、自動伸展-5°自動屈曲140°
やや屈伸障害は残存するものの日常生活には支障がなく治癒した。
<考察>
1.副子の位置を掌側にすることにより患部の冷却が可能であった。
2.腫脹軽減と共に枕子で持続圧迫することで無理なく骨折部を近づけ、整復が可能であった。
3.整復は腫脹が軽減してから行うことで患者さんの痛みが最小限に押さえられた。
4.整復後、枕子による持続圧迫により整復位が安定した。
<結語>
私の行った施行をまとめると、尺骨肘頭骨折は、筋肉の過緊張や腫脹が大きい為に整復障害因子となります。
ゆえに、早期に患部を強度の冷却療法によって、腫脹を軽減させ、筋肉の緊張緩和の後、整復操作を行い枕子固定による持続圧迫療法を行うことにより好成績を得られました。
最後になりましたがX線写真撮影など色々ご指導頂きました田村クリニック院長田村伸介先生並びに固定法のご指導頂きました宮川接骨院院長山村徳三先生に深く感謝致します。
<参考文献>
1)原 勇 山口 裕司:図説整骨学
2)監訳 柏木 大治 広畑 和志 片岡 治:WATSON'JONES 骨・関節の外傷 第2巻
3)広畑 和志 寺山 和雄 井上 駿一:標準整形外科学 第2版